レコ屋の店主の方へのインタビュー連載”レコ屋のヨモヤマ話”。今回は、東京都杉並区西荻南の BEATNIK GROOVE STORE を訪ねました。

西荻窪には、派手に目立つわけじゃないのに、妙に気になる店がある。
レコードとCDが並び、壁にはミュージシャンの絵が飾られ、Tシャツや作品も混ざっている。いわゆる“盤を買う場所”というだけでは終わらない。BEATNIK GROOVE STOREは、レコード屋でありながら、もっと広くて、もっと人間っぽい。音楽の話をしてもいいし、少し脱線してもいい。好きなものを好きなまま持ち込める空気がある。

店主の後藤さんに話を聞いていると、この店の魅力は、品揃えの説明だけではどうにも足りないとわかってくる。ここにあるのは、ロックやソウルやファンクやレゲエを通ってきた人の棚だ。でも、それ以上に、人と人がつながってきた時間の積み重ねがある。レコード屋というより、音楽好きのたまり場。いや、もっと正確に言うなら、音楽を軸に人が自然に混ざっていける場所だ。
このひと言が、BEATNIK GROOVE STOREの輪郭をかなり正確に表している。実際、お客さんからは“ここはレコ屋っぽくないね”と言われることがあるそうだ。でもそれは、レコード愛が薄いという意味ではない。むしろ逆だ。レコードもCDも、アートもTシャツも、バンドも会話も、全部ひっくるめて音楽カルチャーだと思っている人がやっている店だから、普通のレコード屋の枠から少しはみ出している。そのはみ出し方が、この店の個性になっている。

後藤さんの音楽の入口は、小学生の頃に出会ったビートルズだった。
いとこのお姉さんに聴かせてもらったのが最初の衝撃で、そこから一気に持っていかれた。家にはプレーヤーがあったものの、両親が日常的に音楽を聴く家庭ではなかったという。叔母が大学時代に使っていたプレーヤーを借りたり、年上のお姉さんがカセットテープに好きな曲を録ってくれたり。そうやって少しずつ、音楽の世界に入っていった。
当時、小学生で洋楽に夢中になっている子はかなり珍しかったはずだ。それでも周囲の大人たちは、そんな興味を雑に扱わなかった。嫌な顔ひとつせず、ちゃんと曲を聴かせてくれて、相手にしてくれた。その記憶が、後藤さんの中には今もずっと残っている。
ビートルズから始まり、ストーンズ、クイーン、60〜70年代ロックへ。さらにそのルーツをたどるようにソウルやファンクへ進み、レゲエも聴くようになる。そこへ90年代のミクスチャー・ロックが入ってきて、“これだ”と思った。ロックだけでもない、ブラックミュージックだけでもない。いろんな要素が混ざって鳴っているあの感じに、後藤さんはずっと惹かれてきた。

今も自身のバンド『BRAIN SHAKE VIBRATION』を続けていて、鳴らしているのはロックとファンクが交差するミクスチャーだ。好きなレコードの話を聞いていても、ビートルズ、Pファンク、ザ・クラッシュ、ボブ・マーリー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズと、ジャンルは軽やかに横断していく。でも、不思議と散らばらない。全部、後藤さんの中では一本の線でつながっている。
こういう言葉は、気取ると急に軽くなる。でも後藤さんの口から出ると、すっと入ってくる。子どもの頃にもらった一枚から、バンドをやってきた時間も、店に立っている今も、全部がつながっているからだ。

若い頃は、もちろんバンドで売れたいとも思っていた。神奈川に住みながら下北沢へ通い、横浜にも足を伸ばし、野心もあった。でも、そういう時間を通ってきたからこそ、今の後藤さんは西荻窪という街の空気をはっきり言葉にできる。
高円寺も好き。ハードコア、パンク、野心、若さがむき出しのまま歩いている感じがある。一方で西荻は、もっと自然体で、柔らかい。音楽好きは多いのに、過剰に構えていない。その違いが、後藤さんにはすごくしっくりきたのだという。

この感覚は、そのまま店の空気にも重なっている。BEATNIK GROOVE STOREは、詳しい人だけが楽しめる店ではない。かといって、浅くもない。深いところまで行けるのに、入口はちゃんと開いている。若い女性も来るし、海外のお客さんも来る。アメリカ、イギリス、韓国、中国など、国籍もさまざまだ。それでもお店の空気が変にブレないのは、後藤さん自身がこの街をちゃんと好きで、その呼吸に合った店をやっているからだろう。
しかも、その愛着はかなり本気だ。“全部西荻で完結させようとしてる”と言い切るくらい、この街への思いは強い。2号店をやりたい気持ちもあるし、もっと広げたい構想もある。でもそれも、西荻を離れてどこかへ行く話ではない。この街の中で音楽の導線を増やしたい。店の話を聞いているはずなのに、いつの間にか街の話になっていくのは、そのせいなのだと思う。

BEATNIK GROOVE STOREは、最初から実店舗だったわけではない。会社を立ち上げたのは2020年。当初は通販から始まった。最初は一人で、少しずつ形にしていったという。
ただ、後藤さんの周りには、音楽仲間や飲み仲間がたくさんいた。“お店をやったら楽しいんじゃないか”、“やってほしい”。そんな声が積み重なっていくうちに、ただ販売するだけではない、もっと人が集まる場所のイメージが輪郭を持ち始めた。
もともと、中学生の頃にレコ屋へ通っていた原体験がある。レコ屋でバイトもしたし、店長もやった。通販の実務もわかる。それでもやっぱり、顔が見える場所がほしかったのだろう。西荻には音楽好きが多いのに、当時はレコ屋が少なかった。なら、自分でやるか。そうやって、この店はできた。

おもしろいのは、店が“レコード棚”だけで閉じていないところだ。壁には寺井貢さんの絵がある。オリジナルTシャツもある。若いアーティストが”自分もやりたい”と作品を持ってくることもある。おもしろければ、一緒に何かやる。音楽と絵と人が、ごく自然に混ざっている。
この感覚があるから、BEATNIK GROOVE STOREは“商品を並べて終わり”の店にならない。棚を掘っているだけでも楽しいけれど、ふと顔を上げると、別の表現や別の人との接点が見えてくる。音楽が好きな人なら、長居したくなる理由がちゃんとある。

そして、ここで見えてくるのは、この店が完成形ではないということだ。後藤さんにとって、バンドも、通販も、店も、それぞれが独立した活動ではない。自分たちの音楽を鳴らすこと。通販で届けること。西荻に店を構えること。誰かの作品を置くこと。イベントをやること。さらにその先で、レーベルや音楽祭のような形に広がっていくこと。その全部が、音楽を通じて人が集まる場所を増やしていくための、ひとつながりの動きに見えてくる。だからBEATNIK GROOVE STOREは、レコード屋である以上に、後藤さんの場づくりの現在地なのだと思う。

後藤さんの話で、いちばんぐっとくるのはここだ。店には、ときどき中学生くらいの子も来る。最近だとOasisにハマっている子がいたそうだ。その姿を見ると、山形のレコ屋でいろいろ教わっていた昔の自分を思い出すという。
この話がいいのは、ノスタルジーで終わらないところだ。今その子はOasisから入っているかもしれない。でも、その先にはもっといろんな音楽が待っている。ロックから別の時代へ行ってもいいし、ブラックミュージックへ進んでもいいし、思いがけない方向へ転んでいってもいい。その最初の入口として、この店がある。後藤さんはたぶん、そのことをすごく自然に大事にしている。
20代の若い人にも、どんどんいろんな音楽を知っていってほしい。自分が昔、年上の人たちにそうしてもらったように、今度は自分が返していきたい。そんな感覚が、この店の接客にはしっかり流れている。
だからこの店は、初心者を遠ざけない。しかもそれは、単に“やさしい”という話ではない。音楽の世界は深いし、長く遊べる。そのおもしろさを知っている人が、入口を閉じないでいてくれる感じだ。

近くの別のレコ屋であるリプレイスレコードとの関係も象徴的だ。安くて入りやすい盤を探している初心者には“そっちの方があるよ”と勧めるし、逆に向こうにないものはこっちを紹介してくれる。コンセプトが違うから、取り合うより棲み分けた方が街としておもしろい。その感覚もまた、後藤さんらしい。
バンドを続けてきたことも、仕事をしてきたことも、結局はそこに戻ってくる。つながりをないがしろにしないこと。関係をちゃんと続けること。BEATNIK GROOVE STOREは、その考え方が棚にも、空気にも、会話のテンポにも出ている。
そして、ここで見えてくるのは、後藤さんが単に“いい店主”なのではないということだ。レコードを売る人というより、音楽を理由に人が集まる場所を西荻に増やしていこうとしている人。自分が音楽を通して教わってきたものを、店という形で次の誰かに渡しながら、その導線を店の外にも広げようとしている人なのだと思う。

後藤さんには、これからやりたいことがまだたくさんある。2号店もやりたいし、西荻をもっと音楽で盛り上げたい。ライブハウスやスタジオ、レーベルのような動きにも興味がある。ゆくゆくは“西荻の音楽祭”みたいなこともできたら、と話していた。
この話を聞いていると、後藤さんはレコ屋主である前に、音楽を多面的に扱う人なんだとわかる。バンドでは、自分たちの音楽を好きな人が集まる。通販は、その活動を支える現実的な基盤になる。レコ屋は、西荻で音楽好きがふらっと集まる拠点になる。さらにレーベルやイベントになれば、まだ生まれたばかりの表現を外へ届ける導線にもなる。そして音楽祭まで行けば、音楽にまだ深く触れていない人にも街の中で接点を作れる。

つまり後藤さんは、音楽を“聴くもの”“売るもの”としてだけではなく、人と街をつなぐためのコンテンツとして捉えている。しかもそれを、夢として語るだけではなく、バンド、通販、店、イベントという形で、すでに少しずつ接続し始めている。
西荻を音楽で盛り上げたい、という言葉も、ただの願望には聞こえない。もうすでに、店の中では始まっているからだ。ここに人が集まり、会話が生まれ、別の誰かにつながっていく。その小さな連鎖を、店の外にまで持ち出そうとしている。BEATNIK GROOVE STOREは、レコ屋であると同時に、西荻のこれからの音楽の場を育てるための起点なのかもしれない。

最後に、お客さんにどう思って帰ってほしいかを聞いた時の答えが、すごくよかった。
まさに、その通りの店だと思う。一回行って終わりじゃない。棚の続きが気になるし、次は何が入っているのか知りたくなるし、もう少し話してみたくなる。レコードを買いに行くというより、音楽のある時間を取りに行く感じに近い。
西荻窪でレコードを探したい人はもちろん、ただ“音楽好きがちゃんといる場所”に行きたい人にも、BEATNIK GROOVE STOREはかなりおすすめだ。ここには、音楽に教わってきた人がいて、その熱を今度は人に渡している。そしてその先で、店の外にも、街の中にも、音楽の場を増やしていこうとしている。だからこの店では、レコードを一枚買うこと以上のことが、ちゃんと起きている。
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