レコ屋の店主の方へのインタビュー連載「レコ屋のヨモヤマ話」。
愛知県名古屋市、大須にあるレコ屋「greatest hits」。
1995年9月1日に今池でスタートし、その後は2店舗での営業を経て、現在の大須店へ。2026年9月には31周年を迎えます。
取材中、「音楽は昔から好きだったんですか」と聞くと、「ない。今もない」と即答。「じゃあ、なぜレコ屋を?」と重ねると、「(おれが)バカだから」と返ってきます。高嶋さんは、レコ屋の仕事を必要以上に美しく語ろうとはしません。
今回は、greatest hitsの歩みと名古屋のレコード店を取り巻く変化、そして高嶋さんが「ただのモノ売り」と言い切る理由について聞きました。
ご自身のお店を持つまで、どのようにレコードの仕事に関わってきたのでしょうか。
高嶋さん大学を出て、最初は音楽や映像、楽器などを販売する小売業の会社に就職しました。そのあとも中古レコ屋で働いていたので、基本的にはずっとレコ屋で人生を過ごしてきました。
ただ、一度ちょっと嫌になって、大学の先輩に誘われて、1年半くらいアイスクリームの自動販売機を回る仕事をしてたんです。冷凍車に乗って、スイミングスクールやゲームセンター、カラオケ店、郊外型の店舗を回る仕事です。
それまでは店の中の仕事しかしていなかったので、トラックに乗って外を回るのは新鮮でしたね。アイスの仕事で回っていたお店の中に、これからオープンするTSUTAYAがあったんです。店長さんが気さくな方で、自販機も置かせてもらいました。
その後、自分でレコード屋をやろうと決心したとき、その店へいきなり行って、「今度店をやるから、レンタル落ちのCDを売ってください」とお願いしました。まだ名刺もないし、スーツももちろんない。裸一貫でお願いしました。
当時はCDがものすごく売れていた時代。開店したばかりの中古店に、B’zやMr.Childrenのような人気作が自然に集まってくるわけではない。レンタル店で役目を終えたCDでも、商品を揃えるうえではありがたかったんです。
しばらくは「200枚くらい出たよ」と電話をもらうたびに、車で買いに行っていました。今から思えば、楽しかったですね。
今池でご自身のレコ屋を始めた経緯を教えてください。また、当時の名古屋には、どのようなレコ屋があったのでしょうか。
1995年9月1日に今池で始めました。最初は家賃も返済もあるので、もちろん楽ではなかったです。でも、開店して数か月で、何とか食べてはいけるのかなとは思いました。
背景としては、今池という場所が結果的に恵まれていたんです。道を挟んだ向かいには、名古屋の中古レコード店を語るうえで外せない店「ピーカン・ファッジ」(※1)があった。そこを目指して来たお客さんが、うちにも寄ってくれました。
90年代後半は、レコ屋が次々と出てきた時代でした。音楽ソフトの中心はレコードからCDへ移って、CDが最も売れていた。一方で、その反動のように、フリーソウル、ヒップホップ、ハウス、渋谷系といったものが、ニッチなサブカルチャーとして広がっていきました。
名古屋の特徴は、店舗が完全に一か所に集まるのではなく、南北、東西の動線上に点在していること。週末になると、栄から地下鉄に乗って千種、今池、本山まで店を巡る。東山線が、そのままレコ屋を巡る導線になっていたんです。
ジャズの専門店、ソウルの店、ブートレッグを扱う店、ギターポップに強い店、ヒップホップ、ハウス等のクラブ音楽専門店、昔ながらの中古店が、それぞれにありました。店ごとに役割があって、お客さんは何軒も回って買い物をしていました。
特に大須は、古着、中古オーディオ、楽器、電気製品、インディーズ文化などが混在する街です。中古品を探して歩く文化とレコード店の相性がよく、栄や矢場町のクラブ、ライブハウスとも近かったため、音楽好きが一日かけて回遊できました。
(※1)ピーカン・ファッジ:1978年から約41年間営業。今池ビルの解体にともない2019年5月に閉店。クラシックからマニアックなジャンルまで独自のセレクトを誇り、長年親しまれた名古屋を代表する老舗中古レコード店。

その後、大須にも2店舗目を開いたんですね。
2店舗目にオープンした大須はもともと実家で、父親が本屋をやっていました。父が「店をやめるけど、ここをどうする」と言うので、いい機会でした。本屋のコミック棚は、高さを変えればCDを入れられるなど、そのまま活用できることが多く(レコード用の什器などは必要でしたが)、そこは本当に自分は恵まれていたなと思います。
そこから今池と大須の2店舗でやっていて、もう一店舗、栄あたりに出せたらと思っていたくらいです。買い取りがあり、商品が入ってきて、それを売る場所を増やす。勢いで始めた商売でしたが、意外と健全に回っていました。
2000年代に入ると配信が出てきて、音楽ソフトを取り巻く環境が変わりました。ただ、「業界全体が苦しかった」という一般論だけで片づけるのも違う。苦しくない店もあったでしょうから。
今池店に直接響いたのは、駐禁監視員システムの導入が大きかったと思います。今池店がガラス張りだったので、お客様の路駐車がレッカー移動されるのも、間一髪でセーフになるところも店内から見えました。
当時は、2店舗で今後も続けたかったので、今池を閉めるのは本当に断腸の思いでした。
greatest hitsで大切にしていることはありますか。
そんな立派なものはないです。ぼくらはモノ売りですから。
例えば、中古で100万円のビートルズを売っても、ポール・マッカートニーには1円も入りません。自分が儲かるだけです。それで「音楽業界に貢献している」と言うのは、傲慢で思い上がりかもなと思ったりします。
音楽業界といえば、曲を作る、歌う、楽器を弾く、音響や照明をやる。そういう人たちでしょう。レコ屋のスタッフが趣味でバンドやDJをしていたとしても、それは草野球やゴルフをするのと同じです。
もちろん、音楽が嫌いなわけではないですよ。自分もこの歳でいまだにバンドもやっていますし、もちろんライブへ行ったりもします。でも、レコ屋としての仕事とは切り分けて考えています。店では、あくまで物を仕入れて、値段をつけて、売る。それを間違えたらいけないと思っています。いろんな勘違いを経験してきて、こういった意見も言えるようにもなったのかな。

お客さんは、レコ屋やスタッフではなく、商品についているのでしょうか。
特にコレクターの方々は、お店についているわけでも、私たちスタッフについているわけでもなく、モノについているのかな。
極端に言えば、橋の下にゴザを敷いて、そこにすごいブルーノート(※2)が複数枚並んでいたら、人は来ます。お店がどれだけ格好いいことを言っても、モノが途切れたらお客さんは減る。中古レコ屋は、それくらい商品が大事です。
だからこそ、そろばんだけでこの業界に入ってくる人を見ると、不思議に思います(笑)
音楽のことを深く知らなくても商売はできるのかもしれないけど、なぜわざわざレコードを選ぶのかなって。焼肉屋でもやるほうが儲かりますよ(笑)
あとは「エロス」ですね
(※2)ブルーノート:アメリカの名門ジャズ・レーベル「Blue Note Records」。1950〜60年代のオリジナル盤や初期プレスに高い人気があり、状態や品番によっては非常に高額になる。

エロス!?
別に、いやらしい意味だけじゃないですよ。
例えば、天気のいい夏の日に、夕方から夜へ変わっていく街がキラキラしている。遠くのレコード市へ車を走らせる。お店にいい商品が入ってきて、箱を開ける。
そういうときに感じる、ウキウキとか、ドキドキとか、ワクワクする気持ち。何かに惹かれて、心が動く。自分が言っている「エロス」って、そういう感覚なんです。
そもそも、音楽ソフトなんて生活必需品じゃないじゃないですか。
アナログ・レコードが音楽メディアの主流だった頃から、「日本国内での音楽ソフトの総売上額は豆腐のそれに等しい」なんて俗説的に言われてきました。レコードもCDもカセットも、世の中全体で見れば、それくらいの立ち位置なんです。
生活するうえでの優先順位でいえば最後列ですよ。よほど心頭滅却した人でないかぎり、生活に困ったらレコードよりパンを選ぶでしょう。
でも、僕らはそんな「なくても困らないもの」を扱って生計を立てている。
だからこそ、人がそれでも欲しいと思ったり、店に足を運びたいと思ったりする何かが必要なんです。それが僕にとっては「エロス」なんだと思います。
来られたお客さんにも、レコードや店に何かを感じてほしい。ワクワクするとか、妙に気になるとか、また来たくなるとか。そういう、人を惹きつける「エロス」がある店でありたいし、そうならないといけない。
それに、エロスって、余裕がないところにはなかなか生まれないと思うんです。
今日食べるものにも困っていたら、レコードなんて買っている場合じゃない。平和があって、少しの余裕があって、何かを好きだと思える。そういうところに、初めてエロスが生まれるんじゃないかな。
「平和」と「余裕」と「愛」。そういうものの上に、この商売も成り立っているんだと思います。
長く店をやっていても、いい商品が来たら、今でもワクワクします。そういう気持ちが何もなくなったら、商売は続けられないと思います。
最後に告知させていただくと、今年でgreatest hitsは、31周年を迎えます。2026年9月4日(金)から9月8日(火)まで、31周年セールを開催します。期間中は、いつも以上のセール価格や、買取価格アップも予定しています。足を運んでいただけるとうれしいです。
Recoya VIEW
中古レコ屋の仕事を、音楽文化への貢献だとは語らない。あくまで、モノを仕入れ、値段をつけ、それを必要とする人へ売る仕事だと高嶋さんは話されていたのが印象的です。
格好のいい理念を掲げたり、自分たちの仕事を必要以上に大きく見せたりしない。お客さんはお店やスタッフではなく、まずはモノについてくる。だからこそ、いい商品をそろえ、きちんとした値付けをつけて、お店に並べる。
けれど、良いレコードが入ってきたときには、今も心が動く。そのウキウキやドキドキが抗いたくも惹かれる感覚を、高嶋さんは「エロス」と表現しています。
ただのモノ売りだからこそ、モノと出会った瞬間の感覚を失わない。高嶋さんには「そんな大げさなものじゃないんだよ」と怒られるかもしれません。それでも、greatest hitsが31年にわたって続いてきた理由が、少しだけわかった気がしました。