レコ屋の店主の方へのインタビュー連載”レコ屋のヨモヤマ話”。
JR岐阜駅をおりて、バスで10分ほどにあるレコ屋「slow room」。
「聞いたことのない音楽を見つけるのが好きなんです」
と話すのは、店主の大橋さん。愛知県一宮市で育ち、バンド活動、ライブハウスの店長、バーの運営を経て、少しずつレコードの販売へ。今回は、大橋さんに音楽との出会い、バーでレコードを売るようになったきっかけ、そしてslow roomで紹介したい音楽について聞きました。
音楽やレコードに強く惹かれたきっかけや、当時聴いていた音楽は?
大橋さん子どもの頃、家にレコードプレイヤーがあったり、父親がバンドマンだったりしたんですけど、僕にとってレコードのイメージとして大きかったのは、一回り上の兄の存在ですね。自分が6〜7歳のころに、兄がDJを始めて、家にレコードがある風景をそこで見ていたのかなと思います。
自分自身は、中学生の頃からギターを弾きだして、ずっとバンドをやっていました。小学生の頃はGLAYとかL’Arc〜en〜Cielとか、当時流行っていた音楽も聴いていましたし、同じ時期に兄やその友達から教えてもらう音楽もあって、オルタナティブ・ロックにも触れていたんです。流行りの音楽も聴きつつ、少し別のところにある音楽にも自然と広がっていった感じですね。
そのなかでも、心に強く残っている音楽でいうと、完全にニルヴァーナですね。ライブビデオを借りて、めちゃくちゃ見ていました。カート・コバーンはすでに亡くなっていたんですけど、中学生の自分にはすごく影響の大きい音楽でした。
社会人からは?
20歳前半の頃に、一宮でライブハウスの店長をやっていたんですが、そのうち、ライブができるバーを始めたいと思って。28歳のときに、バーを始めました。最初からレコードを売るお店だったわけではなくて、普通に飲みに来たお客さんから、お店でかけている音楽について聞かれることが多かったんです。
その頃、僕はワールドミュージックにかなりハマっていて、たぶんなかなか普通には見つけられない音楽が多かったんですよね。それで、最初は5タイトル程のCDを置いて売り始めました。自分が紹介したい音楽を少しだけ並べたのが始まりです。

そこからレコード販売が広がっていったんですね。
もともと音楽はたくさん買っていたので、これも仕入れたい、あれも紹介したいという気持ちがでてきて、どんどん増えていきました。
最初はCDでしたけど、自分で聴くのはレコードが好きだったので、途中からレコードも扱うようになりました。DJブースも作って、イベントもやるようになって。気づけば、バーの一角にレコードがかなり並んでいました。箱でいうと、10箱弱はあって、レコード屋みたいになっていましたね。当時は、業界の方にも珍しがられました。今はカフェやバーとレコードを組み合わせた店も増えていますけど、当時はまだそこまで多くなかったと思います。後から『当時は、かなり早かったんじゃないですか?』と言われることもありましたね。
でも、さすがに箱が多くなってきて、今はバーとレコード店は岐阜市内で別の場所で運営しています。なので、レコードを見に来てもらう方には、レコード店のslow roomに来てくださっています。
仕事をしていくうえで、大橋さんが大事にしていることはありますか。
最近気づいたんですけど、自分で大事にしている想いとして、基本的には、人と同じことをやらないということがあるんだと思います。
それは利益よりも大事にしている部分かもしれません。バーを始めたときも、単に音楽バーをやりたかったというより、当時はオーガニックやビーガン的なものにも興味があって、料理にも他店にはないようなコンセプトを決めて出していました。
当時は、海外のバンドと対バンすると、ビーガンの人が多かったんです。クラスト系パンクやサマー・オブ・ラブのような自分たちで生活を作っていくようなカウンターカルチャーにも影響を受けました。音楽だけではなくて、カルチャー全体として惹かれるものがあったんだと思います。

slow roomでは、どんなレコードユーザーさんが多いですか。
今は完全にレコードを目当てに来る人が多いです。年齢層はバラバラで、県外から来てくれる人も多いですね。うちの店は新譜が中心なので、中古レコードを掘りに来る感覚の人とは少し違うかもしれません。
中古の安いものを探しに来た人は、少し高いと感じるかもしれないです。ただ、音楽そのものが好きで、新しいものを探しに来る人には楽しんでもらえていると思います。
新譜を中心に扱う理由はありますか。
古い音楽も好きですし、中古レコードが嫌いなわけではないんです。
ただ、自分には新しい音楽を見つけて紹介する方が合っているのかなと思っています。昔の名盤って、もちろんずっといいものとして残るじゃないですか。ビートルズのように、一生聴かれる音楽もある。
でも、いわゆる一発屋のようなものだったり、その時代にしか生まれなかった音楽だったり、もしかしたらこの先ずっと聴かれないかもしれない音楽が、実は一番その時代を反映していて、すごくかっこいいと思うんです。その時代の一瞬をキャッチしている音楽。そういうものを見つけるのが好きなんです。
そもそも、聞いたことのない音楽を見つけるのがすごく好きなんです。そして、それがなぜ面白いのかを伝えることも好きです。もちろん押しつけはしません。お客様におすすめを聞かれたら、なぜ今これを自分がすすめるのか、そこをちゃんと話したいなと思っています。
ジャンルはあまり縛っていません。ただ、昔から自分自身が好きだったロックやワールドミュージックに寄っているなという部分はあります。
様々なジャンルをフラットに見ているつもりではあるんですけど、やっぱりその時代の流れも考えます。今、このジャンルが面白いと思ったら、そこに力を入れることもありますが、そこは嗅覚ですね(笑)
当時はバンドをやっていたので、自分の音楽のヒントになるものを探すような感覚で、CDでもレコードでも、どちらでもよくて、安い方で買って聴いていました。とにかく聴く量は多かったので、その経験かなと思います。

最後に、slow roomはどんな場所でありたいですか。
聞いたことのない音楽を見つけられる場所でありたいですね。ワールドミュージックだけの店というわけでもないし、ロックだけの店でもない。今、自分が面白いと思うものをちゃんと紹介していきたいです。
新譜を扱うことは、アーティストに還元できるという意味でも大事だと思っています。古い音楽を掘る楽しさももちろんあります。でも、今まさに作られている音楽を紹介して、それを必要としている人に届けることも、レコード屋としてできることだと思います。
自分自身も、まだまだいろんな音楽を聴いている途中です。だからこそ、その時々で面白いと思ったものを紹介していきたい。繰り返しになりますが、時代の一瞬をキャッチしている音楽って、必ずあると思うんです。そういう音楽に出会える場所にできたらいいですね。
Recoya VIEW
大橋さんの話を聞いて印象的だったのは、「その時代の一瞬をキャッチしている音楽」という言葉でした。名盤として長く残る音楽だけでなく、今この瞬間に生まれている音楽にも、その時代の空気が強く刻まれている。slow roomは、そんな新しい音楽との出会いを楽しめるレコ屋です。
新譜を中心に扱うことは、単に新しいレコードを並べることではなく、いま音楽を作っているアーティストへと循環をつなげることでもあります。知らない音楽を見つけ、それがなぜ面白いのかを誰かに手渡していく。その姿勢に、slow roomらしさがあるように感じました。
中古を掘る楽しさとはまた少し違う、今まさに鳴っている音楽に出会う楽しさ。岐阜で新しい音楽の入口を探したい人にとって、slow roomはきっと心強い場所になるはずです。