レコ屋の店主・店長の方へのインタビュー連載“レコ屋のヨモヤマ話”。
大分県別府市、砂湯で有名な竹瓦温泉にもほど近い路地にあるレコ屋「Championship Vinyl」。
「別府には、ないものが多い。でも、ないからこそ自分たちでつくろうと思える」と話すのは、店長のマックスさん。
今回は、マックスさんに、音楽との出会い、Championship Vinylで大切にしていること、そして別府という街で店を続ける理由について聞きました。

音楽やアートに興味を持ったきっかけを教えてください。
マックスさん幼少期、父親からは洋楽を教えてもらって、母親からは日本の音楽を教えてもらいました。
ただ、子どもの頃から音楽だけに強く興味を持っていたというより、最初は映画が好きだったんです。映画の主題歌やサウンドトラックを調べて、そこから音楽を聴くようになりました。
大きくまとめると、僕はアートが好きだったんだと思います。映画も音楽も、絵も演劇も、全部含めたアートですね。
小学校から高校までは名古屋市内のインターナショナルスクールに通っていました。学校では演劇にも触れていたので、映画や音楽だけでなく、いろいろな表現に興味を持つようになりました。
僕にとってアートの魅力は、言葉だけでは表せないものを形にできることです。
それを絵にしたり、音にしたり、役を演じることで表現したりする。何かを形にして、外へ出していく、その過程にとても惹かれるんです。
今日着ている服も、自分で手を加えたものなんです。音楽を聴くだけではなく、映画を観たり、絵を描いたり、服をつくったりすることも好きです。
自分の中では、映画、音楽、絵、服をあまり別々に考えていないんです。全部、表現という意味でつながっています。
そうした表現の中でも、音楽は僕にとってエネルギーです。
音楽を聴きながら絵を描いたり、服や作品をつくったりすると、ビートやリズムに背中を押されるように、自然と手が動くことがあります。そこから新しいアイデアが浮かんだり、制作が前へ進んだりするんです。
もちろん、何かをつくる時だけ音楽を聴くわけではありません。日常のなかでも、今日はこれを聴きたいと思うことがあります。
何か出来事があると、その場面に合う曲が勝手に頭の中で流れることもあるんです。自分の毎日に、自分でサウンドトラックをつけているような感覚ですね。
僕にとって音楽は、作品として楽しむだけではなく、毎日の景色や体験と結びつきながら、自分を動かしてくれるものなんです。

特に印象に残っている映画や音楽はありますか?
子どもの頃に印象に残ったのは、ピクサー映画『Mr.インクレディブル』のサウンドトラックです。
マイケル・ジアッチーノの音楽で、クラシックを基調にしながら、昔のヒーロー映画やジャズの雰囲気も入っている。子どもの頃は音楽の構造なんて分かっていなかったんですけど、それでも体にビビッときました。
10代になってからは、『トレインスポッティング』をはじめ、映画を通じてさらにいろいろな音楽と出会いました。
そのなかでも特に好きなのが、デヴィッド・リンチ監督の映画『ロスト・ハイウェイ』のサウンドトラックです。
デヴィッド・ボウイ、マリリン・マンソン、ナイン・インチ・ネイルズなど、普通なら一緒に並ばないようなアーティストが入っているんです。
僕のなかでは、一番好きなサウンドトラックかもしれません。
映像と音楽がうまく重なると、伝えたかったことが何倍にも膨らむことがあります。逆に、すごく悲しいシーンなのに笑えるような音楽を入れてしまうと、そこで異なる世界観を表現できることもある。同じ映像でも、流れる音楽によって、まったく違うメッセージになるんです。
音楽には、人の感情を動かす力があります。映画のなかで既存の楽曲を使う演出を『ニードルドロップ』と呼ぶことがありますが、僕は、ここだという瞬間に曲が入り、その組み合わせがうまく決まった時がすごく好きなんです。
映像と音がどう組み合わさるかは、僕にとってずっと興味のあるテーマです。


Championship Vinylで働くことになった経緯を教えてください。
社会人になって、仕事帰りによく近くのカフェに、毎週のようにご飯を食べに通っていたんです。
そのカフェの方が僕のことを覚えていてくれて、そのつながりで、今の店のオーナーから『一緒に仕事をしないか』と声をかけてもらったんです。
オーナーと出会ったのは、2024年の2月か3月頃です。そこから話が一気に進み、工事や準備を経て、同年5月25日にオープンしました。実は、5月25日は僕の誕生日でもあります。
Championship Vinylという名前は、オーナーも僕も好きな映画『ハイ・フィデリティ』に登場するレコ屋から付けられています。
本格的にレコードを掘るようになったのは、この店を始めてからで、自分のコレクションも大変なことになりました(笑)
地元のお客さんから『マックスさんのお店』と言われることもあります。合っているような、違うような感じですけどね(笑)

店頭には幅広いジャンルのレコードが並んでいますね。
『このジャンルが強い店です』とひとつのジャンルを打ち出すより、少し変わったものや、普段は出会わないものを置きたいと思っています。もちろん、王道の作品も忘れないようにしていますが。
お客さんから『もっとハウスが欲しい』『レゲエを入れてほしい』『UKインディーを探している』と言われたら、それに合わせて仕入れることもあります。
店頭には中古レコードだけでなく、新譜や自主制作作品も置いています。中古レコードとの出会いも面白いですけど、いま活動しているアーティストの作品を知ってもらうことも大切です。出会ったアーティストに直接連絡したり、レーベルへ注文したりしながら、少しずつ増やしています。
店には、別府や大分で活動するDJやコレクターから預かった、委託のレコードもあります。近くで店を営むDJや、地元のコレクターなど、いろいろな方が関わってくれています。音楽を中心にしながら、周りにいるクリエイターの作品も紹介する。
地域の人たちと関わりながら、少しずついまのレコ屋の形ができています。


店づくりで大切にしていることはありますか?
探していた一枚が必ずある店というより、『こんな世界もあるんだ』『こんな音楽があるんだ』と感じてもらえる店にしたいです。
僕たちは、出会いをメインにしています。他店と同じような品ぞろえを目指すより、少し違った角度から音楽を紹介したいと思っています。
大分や別府には、マニアックなものや変わったものが好きな人が多いんです。その人たちが面白いと言うものを教えてもらって、僕自身が面白いと思ったものと組み合わせながら仕入れています。
『これを探しています』という目的だけでなく、知らなかった音楽と出会ってもらえる店にしたいです。
そうした品ぞろえもあって、店には、10代から50代以上まで、さまざまな方が来てくれます。地元や県外からのリピーターに加え、Google検索や音楽好き同士の口コミをきっかけに、海外から来てくれる方もいます。
初めてレコードプレーヤーを買った方や、これからレコードを集めたい方には、少しだけ積極的に話しかけます。どんな音楽が好きなのか、予算はどれくらいなのかを聞きながら、一緒に探しています。最初の一枚は、これから始まるコレクションの入り口ですから、その方が楽しめる一枚を一緒に見つけたいんです。
レコ屋に慣れていない人にとっては、店へ入ること自体が難しいこともあると思います。でも、恐れず、迷わず来てほしいんです。迷うのは、店に入ってからで大丈夫です!
中に入ってから迷ってもらって、分からなければ何でも聞いてください。僕がお供しますよ。


これからChampionship Vinylを、どのような場所にしていきたいですか?
今の形を続けながら、新しいリスナーを増やしていきたいです。
そして、別府や大分のアーティスト、県外で知り合ったアーティスト、DJ、クリエイターなど、いろいろな人をつなぐハブのような場所にしたいと思っています。
レコードを販売するだけではなく、ライブやイベントの情報を伝えたり、地域の店を紹介したり、アーティストの作品に触れられる場所をつくったりしたいです。
Championship Vinylを入り口に、別府の街やカルチャーへ興味を広げてもらえたらうれしいですね。
人や作品との出会いによって店の棚が変わり、その棚がまた新しい出会いを生み出していく。そういう店にしていきたいです。
別府には、いろいろなアーティストやクリエイターがいます。その人たちの存在をもっと多くの人に知ってもらい、作品に触れてもらえる場所にしたいです。
そして、県外や海外の音楽を別府の人に紹介する場所にもなりたい。レコード店でありながら、別府や大分のカルチャーを案内できるハブとして続けていきたいです。
そう思うのは、別府が、すでに何でもそろっている街ではないからです。
僕にとっては、何でもある環境よりも、少し足りないくらいの場所の方が面白いんです。名古屋にいた頃は、好きな映画が公開されたらすぐに観に行けましたし、欲しい商品や作品も比較的簡単に手に入りました。便利ですし、選択肢も多いですよね。
ただ、それがだんだん当たり前になって、一つひとつの体験に対するワクワクが少なくなることもありました。
別府には、ないものが多い。でも、ないからこそ、一回のライブやイベントが記憶に残ります。
そして、ないものをただ待つのではなく、自分たちでつくろうと思えるんです。誰かがすでにやっているからいいや、ではなく、ないなら自分が動こうと思える。行動に移せるんです。
選択肢が限られていることで、自分が本当に好きなものも、以前よりはっきりするようになりました。
何でもそろえるために買うのではなく、『自分はこれが本当に好きだ』『自分にはこれが必要だ』と思えるものを選べるようになったんです。
限られているからこそ、一つひとつを大切にできる。それも、僕が別府にいる理由のひとつです。
店に来たら、僕のことを『マックス』と呼んでください。恐れずに入ってきてもらって、迷うのは店の中に入ってから。一緒に音楽を探しましょう。
Recoya VIEW
Championship Vinylを取材して印象に残ったのは、「ないからこそ、自分たちでつくる」というマックスさんの言葉。何でもそろう街ではなく、少し足りないからこそ、一つのライブや一枚のレコードとの出会いが強く残る。
そんな別府という街で、マックスさん一人の好みだけでなく、地元のDJやコレクター、クリエイターの作品が混ざり、人との出会いによって棚が変わっていく様子。
レコードを探すだけでなく、別府のカルチャーに触れる入口として、これからどんな出会いがChampionship Vinylに積み重なっていくのか楽しみです。

