Feature

斜里で、音楽というヘルシーな変態になる。 JUICErecords(北海道斜里町)#27

レコ屋の店主・店長の方へのインタビュー連載“レコ屋のヨモヤマ話”。

北海道・知床の玄関口、斜里町にあるレコ屋「JUICErecords」。国道244号沿い、もともと電気店だった建物の一角に、HIPHOPを軸として、SOUL、FUNK、JAZZ、和モノなどのレコードが並んでいます。

店主は、ストリートダンサー、DJ、デザイナーとしても活動するMETH(XXX-LARGE)さん。18歳で斜里を離れて東京へ向かい、ダンスに打ち込みながら、宇田川町のレコード店を巡る日々を過ごしました。2011年、東日本大震災と家族ができたことをきっかけに地元へ戻り、実家の電気店を活用してJUICErecordsを始めます。

今回はMETH(XXX-LARGE)さんに、音楽やダンスに夢中になった10代、東京で過ごした時間、地元に戻ってレコ屋を始めた理由、そして15年目を迎えたJUICErecordsのこれからについて聞きました。

JUICErecords

JUICErecords
北海道斜里郡斜里町

Recoya

音楽やダンスに興味を持ったきっかけを教えてください。

METH(XXX-LARGE)さん

METH(XXX-LARGE)さん

僕が10代だった1990年代は、ダンスだけでなく、NBAやスケートボード、ファッションなど、いろいろなカルチャーが一気に入ってきた時代でした。斜里には今のように情報がなかったので、雑誌などから情報を集めていましたね。

最初は周りにもダンスをやる友達が10人くらいいたんです。でも、みんな次第にスケートボードやバスケットボールへ移っていって、最後まで続けていたのは僕一人でした。それでも周りは面白がってくれていて、バンドをやっている友達と一緒に何かをやったりもしていました。

レコードも地元ではなかなか買えませんでした。一番近くても旭川で、僕らが欲しいHIPHOPのレコードを探すなら札幌まで行く。夜行バスに夜10時頃乗って、朝5時、6時頃に着いて、そこから店を回っていました。当時は高速道路も今ほど整っていなかったので、本当にちょっとした旅でしたね。

Recoya

18歳で東京へ出たあとは、どのように過ごしていたのでしょうか。

とにかくダンスでした。田舎から出てきた以上、親に報告できるくらいまでは頑張ろうと思って、ひたすらやっていました。東京ではダンスだけでなく、それまで雑誌で見ていた音楽や服にも毎日触れられる。宇田川町のレコード店が元気だった時代を、しっかり過ごしました。毎日のようにレコードを買っていましたね。

自分が好きなレコードは、同じものを見つけたら重ねて買って、友達に売ることもありました。箱に自分なりのおすすめを詰めて持っていくような感覚です。だから、レコードを選んで人に渡すことは、店を始めるずっと前からやっていたんです。

東京ではダンサーとして活動しながら、デザインの仕事も始めました。自分たちの衣装やTシャツをつくったり、フライヤーやロゴを手がけたり。ダンス、音楽、デザインは、僕のなかでは最初から別々のものではなかったと思います。

JUICErecordsのレコード

Recoya

斜里へ戻ることを決めた理由と、JUICErecordsを始めた経緯を教えてください。

2011年の東日本大震災がひとつのきっかけでした。その頃に子どももできて、一度地元へ戻ろうと思ったんです。戻ること自体は、それまであまり考えていませんでした。

ただ、東京から戻れば、ダンスだけで動ける機会は少なくなる。それなら別のこともやろうと思いました。いつかレコ屋をやりたいという気持ちは以前からありましたし、売るために持っていたレコードも2,000〜3,000枚ほどあった。まずは同級生が営む服屋でポップアップをさせてもらい、そこから始めました。

この場所は、父がやっていた電気店です。空いていたスペースを使わせてもらって、そのまま居座っているような感じですね(笑)。固定費を大きくかけずに続けられたことも、斜里で15年近く店を続けられた理由のひとつだと思います。

Recoya

地元にレコ屋があることには、どのような意味があると思いますか。

あるのとないのとでは、全然違うと思います。この辺りにもDJは多いんです。北見は特にDJの街という印象があって、昔はジャンルごとに複数の箱がありました。今はネットでレコードを買えるので、レコードを持っている人はいます。でも、店で実物を見ながら掘る体験をしていない人も多い。

僕は、フィジカルで掘る姿勢が好きなんです。店の都合で100円まで値段を下げたレコードがあって、それをお客さんが見つける。「こんなものが、この値段で見つかった」という喜びは、店だから生まれるものですよね。JUICErecordsでは、相場より少し安く出すことも意識しています。

HIPHOPのLPは今、驚くほど高くなっています。だから完品だけにこだわらず、DJユースなら十分楽しめる盤を手頃に出すこともあります。欠品があっても、欲しい曲が入っていて2,000円なら、それを選ぶ人もいる状態をその場で見て、納得して買えるのもお店でDIGする良さだと思います。

JUICErecords 店内

Recoya

レコードだけでなく、人が集まる場所でもあるのでしょうか。

そうですね。僕が欲しかったのは、サロンのような場所でした。ダンサーは自分の拠点を持たず、自分から動いていくことが多い。でも、「ここへ来れば僕がいる」「ちょっと話ができる」という場所があれば、そこから何かが育つと思ったんです。

高校生が来ることもあります。ダンスからHIPHOPに興味を持って、レコードにも触れてみる。斜里に暮らしている子たちは、最初からこの街でレコードに触れられるとは思っていないので、店があること自体に驚くんです。看板も大きく出していないので、ここまで来たら「よく来たね」という感じです(笑)。

僕は、ダンスだけ、音楽だけと分けずに、全部やった方が面白いと思っています。店内で個人レッスンをすることもありますし、DJをやってみたい人には機材に触れてもらう。ターンテーブルやプレイヤーも、使える状態にメンテナンスして販売しています。ここで始めるきっかけまで渡せたらいいですよね。

JUICErecords 店内

Recoya

15年目を迎え、これから取り組みたいことを教えてください。

商売だけで考えれば、この土地とレコ屋は、あまり整合性が合っていないと思います。でも、その妙なズレを楽しんでくれる人がいる。斜里のような小さな街にレコ屋があるということ自体を、文化にしていきたいんです。

この土地にうまく馴染めず、何かを持て余す人もいると思うんです。そういう人には、変な方向へ行くより、音楽の方がいいんじゃないかと言いたい。音楽も十分に変態ですから(笑)。ヘルシーで合法なのに、しっかり深くハマれる。そういう世界があることを伝えたいですね。

今年は15年目の記念として、この地域にある自分の好きな店と一緒に、形に残るものをつくりたいと思っています。自分はダンス、レコード、デザインの三つを仕事にしてきました。その全部を使って一緒に新しい価値をつくることが、JUICErecordsらしい周年の残し方だと思っています。

これからも、斜里にレコ屋があるということを続けていきたいですね。このロケーションでやっていることの貴重さを大事にしながら、地元の人にも、旅で訪れる人にも、「ここに来ると何かがある」と思ってもらえる店でありたいです。

JUICErecords

JUICErecords
北海道斜里郡斜里町

Recoya VIEW

JUICErecordsで印象に残ったのは、音楽、ダンス、デザインを分けず、一つの文化として地域へ手渡すMETH(XXX-LARGE)さんの姿勢です。オンラインで何でも買える時代にも、実物を掘り、人と話し、初めて機材に触れる場所には、画面の中では生まれないきっかけがあります。小さな街とレコ屋の「妙なズレ」さえ魅力に変えながら、斜里に音楽の入口を残し続けるJUICErecords。ここから次の15年にどんな人と表現が育つのか楽しみです。

近くのレコ屋を探す

記事を書いた人:
Recoya運営チーム
「Recoya」の公式運営チーム。レコ屋を知るきっかけを増やし、人と店、人と街をつなげることを目指しています。

関連記事