レコ屋の店主の方へのインタビュー連載”レコ屋のヨモヤマ話”。
兵庫県尼崎市、杭瀬中市場にあるレコ屋「KOH-GEN RECORDS」。
「もともとずっとライブハウスで裏方をやってたんです」
店主の高垣さんは、レコード店を始める前、長くライブハウスの現場で働いてきました。
今回は、高垣さんに、音楽との出会い、ライブハウスでの経験、そしてKOH-GEN RECORDSを通してこれからやっていきたいことについて聞きました。
音楽に強く惹かれたきっかけを教えてください。
高垣さん出身は和歌山です。日高町っていうところで、隣が御坊市ですね。子どもの頃から家でレコードを聴いていたかというと、全然そんなことはなくて。レコードプレーヤーもなかったです。
ただ、赤いラジカセがあったんですよ。アニメの主題歌をテレビから録音して、テープで聴いたりしていました。
音楽のスイッチが入ったのは中学校です。ちょうど僕らが中学校に上がるぐらいに、いわゆるバンドブームがあって。THE BLUE HEARTS、X、JUN SKY WALKER(S)、BUCK-TICKとか、そういうのがどっと流行っていました。あと、一個上の先輩が近所でドラムを叩いていたんですよ。卒業コンサートみたいなのがあって、先輩がドラムを叩いているのを見て、かっこいいなと思って。
THE BLUE HEARTSとかJUN SKY WALKER(S)が好きになって、そのルーツをたどっていくと忌野清志郎が出てきたり、セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュ、ラモーンズが出てきたりする。さらにたどるとThe Beatlesが出てくる。そういうのが楽しくて聴いていました。
高校の友達と大阪に行くこともありました。みんなはアメリカ村で服とかキャップを買っているんですけど、僕はタワーレコードに行ってCDを買っている、みたいな子どもでした(笑)
ライブハウスの現場へ進んだ理由は?
高校を卒業したら、最初は公務員か何かで町役場で働くわ、ぐらいに親には言っていたんです。でも、バンドをやっていたら、やっぱり音楽の方に興味が出てきて。
ただ、プレイヤーとして自分に自信はなかったんです。僕より上手い子もいましたし、勝てないな、というのは頭のどこかにはあったんだと思います。
そんなとき、和歌山県民会館とかに、全国ツアーのアーティストが来るじゃないですか。コンサートを見ていると、後ろの方で働いている人がいる。あれ、かっこいいなと。あれは何なんやろうと思って調べていくと、そういう仕事を学べる専門学校があるとわかったんです。それで、裏方の仕事に興味が出たんです。
それで大阪の専門学校に行ったんですけど、寮が尼崎にあって、そこから今につながっていくんですけど。

ライブハウスで働く中で、何が面白かったですか。
専門学校の研修で、ライブハウスに行くことになりました。それがめっちゃ面白くて。もうそのまま『ここで働かせてくれませんか』と直談判しました。
あとあと、自分にとってよかったなぁと思うのは、そのライブハウスがメジャーアーティストが毎日来るような場所ではなかったことです。地元の、今から頑張るぞというバンドが、日々切磋琢磨している。彼らのその姿を見られたのが非常に大きかったです。
レギュラースタッフがいて、その方たちと『今日のバンドどうやった』『前より良くなってたな』みたいな話をするんです。そういう空間とか時間が面白かった。それも自分たちがバンドを育てたんだぞ、という感じではないんです。単純に、彼らの変化を一番目の前で見ていられるのが嬉しかったんだなと今は思います。
そして動員が増えて、見に来るお客さんが増えてくると、やっぱり嬉しかったし、その時に裏方視点で気づくことは言ったりはします。関係が密になっていくと、『ここでイベントをしたい』とか『ワンマンをしたい』という話になってくる。そうすると、音響や照明も含めて、もっと細かい変化が見えてくるんです。一緒に手作りしていってるのが、本当に楽しかったんです。
ライブハウスって、人と人をつなげる場でもあったのでは?
ライブハウスで経験を積んでいくと、ビッグキャット(※1)のオープニングスタッフやステージ管理などを任せていただけるようになりました。その後、神戸のVARIT.(※2)というライブハウスでブッキングマネージャーをやることになって、ライブハウスといっても自分ができる幅が広がってきました。それに伴って、自分自身が楽しいと思える仕事もわかってきたんです。
ビッグキャットは大きい会場なので、それなりのアーティストが毎日のように来て、人が入れ替わっていくような現場でした。でも神戸では、もっと自分たちで現場を作ることになります。
演出側から、人と人をつなぐ立場に変わった感じです。ほぼゼロからだったので、ブッキングといっても、受付もやるし、ドリンクも売るし、タイムテーブルをつくるし、いろいろやります。でも刺激的だったのは、お客さんとの距離がすごく近くなったことです。
そして、知らないバンド同士をくっつけたり、知らないお客さん同士が出会ったりする。その場を作るのが幸せでした。それはいまも続けているイベント活動「光源宣言(※3)」につながっています。
(※1)ビッグキャット・・・日本でも有数のライブハウス。大阪心斎橋にあるアメリカ村の中でも高い支持を誇る
(※2)VARIT.・・・神戸三宮、2004年に誕生したライブハウス
(※3)光源宣言・・・毎月、アーティストを4~5組を集めてKOH-GEN RECORDS主催のライブイベントを2023年から毎月運営しています。

そういった背景からKOH-GEN RECORDSでは、有名でないアーティストの音源が大切に置かれてるんですね。
レコード店も、ただ音楽を置いているだけではなくて、誰かが来て、知らない音楽に出会う場所だと思うんです。人と音楽がつながる。ライブハウスでやってきたこととは形が違いますけど、根っこは近いのかもしれません。
僕自身も、応援しているという感覚だけではなく、自分自身がやりたくてやっている。ライブハウスの時もそうでしたし、今もそうだと思います。まだ売れていないけど、かっこいい。お客さんは少ないけど、続けて見ているとどんどん良くなっていく。そういう変化を間近で見てきたので。
だから店でも、すでに評価が決まっているものだけではなくて、『これ誰だろう?』と思って手に取ってもらえるようなものを置いています。有名じゃないから価値がない、ということでは全然ないんです。
例えば、店にもポスターを貼っているハニーディップというバンドがあるんですけど、そのバンドもライブハウス時代に知り合ったバンドなんです。一度解散していたんですけど、解散している間に海外で評価が広がっていって、「昔、日本にこんないいバンドがいたんだ」という感じで知られていったんですよね。そういうふうに、時間が経って届いていく音楽もあるんだなと思います。
まだ知られていないものに出会えることが、レコード店の面白さだと思っています。ライブハウスで、たまたま見たバンドがめちゃくちゃ良かった、みたいなことってあるじゃないですか。レコード店でも、そういう出会いがあったらいいなと思います。
もちろんレコードをずっと聴いている人にも来てほしいですし、ライブハウスが好きな人にも来てほしい。これから音楽を掘ってみたい人にも来てもらえたら嬉しいですね。

これからKOH-GEN RECORDSをどうしていきたいですか。
いま大事にしていることを今後も続けていきたいですね。
将来的にはレーベルにもチャレンジしていきたいです。いまでもアーティストさんの音源の配信などを手伝ったりするなど、音楽を伝えていくことに関わったりしています。そのうちレーベルというこれまでと異なった形でアーティストとお客さんをつなげていければ、自分の可能性も広がると思うんです。
ライブハウスでやってきたことの延長線上にある感じですね。今まではライブの現場で人と人をつないできたけど、ライブハウスとは違うカタチを探っています。アーティストの音源を通して、まだみんなが知らない曲やバンドを伝えていけたらいいなと思っています。
Recoya VIEW
高垣さんの話を聞いて印象的だったのは、ライブハウスで見てきた“まだ知られていない音楽”へのまなざしでした。売れているかどうか、有名かどうかだけではなく、目の前で少しずつ変化していくバンドやアーティスト。その姿を近くで見てきた経験が、KOH-GEN RECORDSの取り組みにすべてつながっています。
店内に並ぶ音源は、ただの商品ではなく、誰かにとって、知らない音と出会うための入口でもあります。ライブイベント「光源宣言」や、将来的なレーベルへの想いも含めて、高垣さんが続けているのは、音楽と人、人と人をつなげる活動なのだと思います。
レコ屋で、たまたま手に取った一枚が、次に行くライブや新しいアーティストとの出会いにつながる。そんな音楽の広がりを楽しみたい人にとって、KOH-GEN RECORDSはきっと面白い場所になります。