レコ屋の店主・店長の方へのインタビュー連載“レコ屋のヨモヤマ話”。
山梨県山梨市にあるレコ屋「大平(BIGFLAT)」。店内には、新品・中古のレコードやCD、stillichimiyaの作品やグッズなどが並んでいます。
店主は、山梨県一宮町をルーツに持つヒップホップグループ「stillichimiya」のメンバー、Big Benさん。「大きな野望があるわけじゃないんです。ただ、店をやることはすごく性に合っていたんだと思います」と話します。
今回はBig Benさんに、音楽やレコードとの出会い、stillichimiyaと山梨、そして大平(BIGFLAT)という場所について聞きました。
音楽を好きになったきっかけを教えてください。
Big Benさん家でずっと音楽が流れていた、というような家庭ではなかったんですけど、保育園とか小学生の頃から歌番組やアニメの曲は好きでした。一番好きだったのは『ゲゲゲの鬼太郎』のオープニングやエンディングだったと思います(笑)。
どっぷり音楽にハマったのは中学生の頃ですね。いろいろ聴いていましたけど、カーティス・メイフィールドは大きかったです。シンガーであり、プロデューサーであり、ギターも弾く。自分でレーベルもやっていた方で、僕にとってはかなり大きな存在でした。
家には親のレコードもあったので、聴いたことはありました。中古屋にもレコードが並んでいたので、なんとなく「自分でも買ってみたいな」と思って。最初に買ったのは、たしかニーナ・シモンです。雑誌か何かで名前を見て覚えていて、レコードを見ていたらその名前があった。それで「買ってみようかな」と。
その頃は、レコードの方が音がいいとか、そういうことを意識していたわけではなかったです。LPの30cmのジャケットが大きいとか、レコードそのものの見た目とか、そういうビジュアル面。あとは、聴く時にジャケットから出して、置いて、針を落とす。面倒くさいですけど、それも含めて楽しいですよね。
高校生になるとDJ文化が盛り上がっていて、ターンテーブルやミキサー、ヘッドホンなんかが一式になったテクニクスのDJセットが売られていたので、自分も買いましたね。
ただ、僕は絶対レコードじゃなきゃダメというタイプでもないんです。CDにはCDの音の良さがあるし、レコードにはレコードの良さがある。サブスクだったら、気になったものを検索すればすぐ聴ける。それぞれの良さがあると思っています。
stillichimiyaは、どのように始まったのでしょうか。
僕らが住んでいた一宮町が、市町村合併でなくなるという話がきっかけです。
平成の大合併ですね。ずっと一宮で育ってきて、そこが合併するとなった時に、「反対したいよね」って。それでstillichimiyaという名前を付けて、ラップで反対する曲を作ったのが始まりです。最初は今よりもっと人数がいて、本当に地元の友達が集まったような感じでした。
小学校から一緒のメンバーもいれば、中学校からのメンバーもいる。高校でつながったメンバーもいます。だから、音楽をやるためにメンバーを集めたというより、先に友達だったんですよね。
でも合併反対って言った直後に、みんな東京へ出るんです(笑)。何やってんだって感じですよね。先に東京にいたメンバーもいて、何人かで一緒に住んでいました。僕も2005年ぐらいに東京へ出ました。
東京では、みんなで集まってラップしたり、曲を作ったり。ライブもしていましたけど、昼間は普通にバイトをしていました。僕は三鷹の方に住んでいて、自転車で吉祥寺まで行って、よくレコードを買っていました。DJでかけたいレコードも買っていましたし、単純に家で聴きたいものも買っていました。

なぜ山梨で、レコ屋を始めることになったのでしょうか。
僕は2008年に戻りました。他のメンバーもだんだん山梨へ戻ってきて。東京に出ても、結局歌っているのは山梨のことだったし、遊んでいるのも山梨の友達が多かったんです。東京でライブしたり遊んだりするのも楽しかったですけど、「そろそろ戻るか」って、なんとなくそう思ってたのかな。
一度地元から外へ出たことで、客観的に山梨の良さが分かったところもあったと思います。東京に住んでいる時も、山梨でライブがあれば戻ってきていましたしね。やっぱり住み慣れた街が居心地がよかったのかな。
レコードはずっと買い続けていましたね。甲府にも昔からあるレコ屋があって、そこにはしょっちゅう行っていました。でも、自分でレコ屋をやりたいとは全く考えてなかったです。
山梨でふらふらしていた時期があって、それを心配した友達から、「お前、レコ屋とか向いてんじゃない? レコード好きでしょ」みたいに言われたんです。それで、「確かに。やってみようかな」って(笑)。
ちょうど共通の友達にレコ屋に使える場所があって、そこを少し間借りするような形で始めたんです。最初から「レコ屋になる」みたいな目標があったわけではないですね。
それから3年後に、いまの場所に移転しようとして、2、3か月ぐらいいろんなところを見たんですけど、なかなかピンとくる場所がなくて。そんな時、友達から、昔からよく行っていたカレー屋さんの近くに「ここ空いてるよ」って教えてもらって。
中は結構ボロボロだったんですけど、ここに決めました。改装も友達がみんな手伝ってくれたんです。いつものメンバーだったり、友達だったり、友達の友達だったり。もしこの場所が見つからなかったり、改装がうまくいかなかったりしたら、ちょっと心が折れていたかもしれないですね。すごく周りのみんなに助けてもらいました。
現在も、山梨で音楽に関わる活動を続けているんですよね。
そうですね。stillichimiyaとしては、最近は昔ほど頻繁に曲を出しているわけではないですけど、ラジオは週に1回やっています。
あとは甲府のJUJU(※1)で、stillichimiya主催のDJイベントを年に4回ぐらいやっています。メンバーもDJで出て、そこにゲストを呼んだり。去年は大平(BIGFLAT)の周年パーティーもJUJUでやりました。
若い子たちがやっているヒップホップのイベントに、DJとしてではなく、レコードを持って出店することもあります。
普段は、みんなそれぞれです。音楽をやっている人もいるし、曲を作ったり、レコーディングやミックスをする人もいる。映像を作っている人もいれば、農業をやっているメンバーもいる。それぞれに自分の仕事や活動があって、その上でstillichimiyaがある感じですね。
昔からの友達なんですけど、実はお互いのプライベートには、そんなに入り込まないんですよ。むしろファンの人の方が、「今日あのメンバーはここでライブしてる」とか、それぞれの活動を僕らより詳しく知っていたりするぐらいです(笑)。ずっと一緒にいるけど、ずっと一緒にいるわけじゃないというか。そういう距離感は昔からありますね。
(※1)JUJU:山梨県甲府市にあるクラブ「Kofu JUJU」。HIPHOP、R&B、HOUSE、REGGAEをはじめ、幅広いジャンルの音楽を楽しめるミュージックスペースです。県内外のDJを招いたパーティーやイベントを開催し、甲府のナイトカルチャーを支える場所のひとつとなっています。

大平(BIGFLAT)で、特に大切にしていることはありますか?
一番力を入れているのは中古レコードです。そのなかでも値段については、あまりお金を持っていない人でも楽しめるような設定を心がけています。シールで100円、300円、500円、700円と分けていて、中古のLPだと500円、700円ぐらいのものが一番多いと思います。
今日はあんまりお金を持ってないけど、2枚、3枚ぐらいレコードを買いたいなっていう時もあるじゃないですか。自分自身が、そういうレコードの買い方を結構していたんです。もちろん、それより高いレコードもいっぱいあります。ただ、手頃な値段で買える中古レコードは、これからも充実させていきたいですね。
レコメンドコメントは、始めたばかりの頃は、レーベルインフォみたいなものを要約して書くこともありました。けど最近は、自分が感じた面白さも入れることを意識しています。おすすめレコードの棚は、何年に発表されたとか、どこのレーベルから出たとか、そういう情報だけじゃなくて、自分が感じたことを特に書くようにしています。やっぱり、その方がお客さんにも説明しやすいですしね。
店の常連さんは年配の方が多いですね。僕が音楽活動をしていることを知らない人もたくさんいますね。ただ普通に、若い頃からレコードが好きで、今も買い続けている。僕より先輩の人たちですね。
「このバンドが70年代に日本へ来た時、ライブを見たよ」みたいな話をされて、「マジっすか」って(笑)。ロックがめちゃめちゃ詳しい70歳のお客さんがいたり。そういうお客さんから僕が知らないことを教えてもらうことも多くて、すごく勉強になります。
だんだんみなさんの好みも分かってくるので、仕入れをする時にも「これ、あの人好きだろうな」って、お客さんの顔を思い浮かべることがありますね。
甲府に桜座っていう場所があって、ジャズだったり、いろんな面白いライブをやっているんです。そこへライブを観に行くと、店のお客さんと偶然会うことがあります。「あ、ここにも来てるんだ」みたいな(笑)。stillichimiyaや田我流を知っていて、県外から来てくれる人もいます。特に夏休みみたいな時期には、そういう人も来ますね。

最後に、山梨でお店を続けていて、いいなと思うのはどんなところですか?
店をやっていていいなと思うのは、この場所に来れば自分がいるということですね。
さっき来ていたお客さんも、2年ぐらい会っていなかったんですが、突然来たんですよ。定期的にはメールではやり取りしていたんですけど、急に店に来て、「ああ、久しぶり」って。
それって、店をやっているからだなと思います。店って、営業時間には基本的に開いているじゃないですか。だから、約束しなくても来られるんですよね。友達が急に店に来てくれたり、久しぶりの人が来てくれたり。連絡を取って、日にちを決めて会うんじゃなくて、その場所に行けばいろんなものがあって、そこに誰か人がいる。そういうことができる場所って、店なんだなと思います。
2016年に始めて、もう10年ぐらいになりますけど、振り返ってみると、店をやることはすごく自分の性に合っていたんだと思います。お客さんがここに来ている時間も好きだし、自分一人でいる時にレコードを整理したり、作業したりしている時間も好きです。だから、何か大きな野望があるというよりは、いまの店のまま、できるだけ長く続けられたらいいですね。
ちょうど今年は、大平 BIGFLATの10周年でもあります。10月31日(土)には、甲府のJUJUでstillichimiyaが主催しているパーティー『PATTANAA(パッタナー)』を“大平 BIGFLAT 10周年スペシャル”として開催します。
PATTANAAは年に4回ほどJUJUで開催していて、毎回stillichimiyaのメンバーがDJを担当して、いろいろなゲストを呼んだり、その時期に合わせた企画をやったりしています。今回はゲストDJにtofubeatsさんを迎えます。それから、stillichimiyaのYoung-Gと僕、Big Benによる『おみゆきCHANNEL』のライブもあります。
来ていただいた皆さんには、大平 BIGFLATからちょっとした特典も用意しています。10周年なので、ぜひ遊びに来てもらえたらうれしいですね。お待ちしています!
Recoya VIEW
今回の取材で印象に残ったのは、何度も登場した「友達」の存在でした。ただ、いつも一緒にいるわけではありません。それぞれに仕事や活動があり、必要な時には自然と集まり、お店の改装を手伝ったり、一緒に音楽を鳴らす。腐れ縁とは少し違う、長く続いてきた仲間ならではの距離感がありました。
また生まれた山梨を一度離れ、東京へ出たことで、改めて地元の居心地のよさに気づいたBig Benさん。今は大平(BIGFLAT)という自分の場所を持ちながら、DJイベントやラジオ、出店などを通して、お店の外でも音楽と街をつないでいます。
「約束しなくても来られる」お店を開き続けることも、その延長にあるのかもしれません。大きなことを掲げるのではなく、自分たちが生まれた場所で、それぞれのやり方で音楽を続けていく。その姿そのものが、大平(BIGFLAT)の魅力だと感じました。