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渋谷で、音の混ざり方に出会う。GLOCAL RECORDS(東京都渋谷区) #10

レコ屋の店主の方へのインタビュー連載”レコ屋のヨモヤマ話”。今回は、東京都渋谷区神宮前の GLOCAL RECORDS を訪ねました。

GLOCAL RECORDS

GLOCAL RECORDS
東京都渋谷区神宮前

路地の奥で、音の混ざり方に会う

GLOCAL RECORDS 外観

渋谷や原宿の熱気から、少しだけ身をかわす。大通りを外れて、住宅街っぽい空気が混じり始める路地の奥へ入っていくと、GLOCAL RECORDSがある。

いわゆる“通りがかりで映える店”ではない。むしろ、ちょっと奥まで入り込んでいく感じがいい。表の流れから少しズレた場所にあるからこそ、この店の空気はちゃんと生きている。流行の最前列を追いかけるというより、もっと長い時間をかけて、自分たちの耳で選んできた音が積もっている店だ。

GLOCAL RECORDS 店内

扉を開けて棚を見れば、すぐに分かる。ここは、ただジャンルごとにレコードが並んでいる店じゃない。ダンスミュージック、ワールド、レゲエ、ブレイクビーツ、ヒップホップ。そのあたりの音が、知識としてではなく、現場感のあるグルーヴとしてつながっている。クラブで鳴る音も、土地の匂いが残る音も、この店では同じ地平で扱われている。

GLOCAL RECORDSは、“知ってる人だけの店”に見えて、実はそうじゃない。むしろ、まだ言葉にできていない”これ、なんか好きかも”をすくい上げてくれる。そういう意味で、かなり信用できるレド屋だと思う。

兄の音から始まって、最初の一枚はパンクの7インチだった

箕輪さんが初めて買った一枚『KENZI/OH! MY CAT』

店主の箕輪さんは東京・中野生まれ。音楽の入口になったのは、親よりも4つ上の兄だった。兄が聴いていた洋楽を、小学生の頃から自然に一緒に聴いていたという。

ちょうどその頃は、レコードからCDへと時代が切り替わっていく境目でもあった。小学校6年生から中学1年生くらいでCDが出始めた世代。レコードの手触りを知りつつ、新しいメディアが一気に広がっていくあの感じも、身体で通ってきている。

でも、最初に自分で欲しいと思った一枚は、分かりやすいヒット盤じゃなかった。兄に小遣いを渡して、新宿のパンク専門店で買ってきてもらった、日本のパンクの7インチ。それが最初の“自分の一枚”だったという。

レコード棚のクローズアップ

ここ、すごくGLOCALっぽい原点だと思う。最初から売れ線に反応するんじゃなくて、現場で鳴っている熱や、活動している人たちの匂いに手が伸びている。その感覚は、今の店の棚にもそのまま残っている。大きな市場の中心というより、ちゃんと耳を澄ませていないと通り過ぎてしまう音。その価値を、子どもの頃からなんとなく分かっていた人なんだと思う。

“友達が客”だった高校時代のDJが、今もずっとつながっている

GLOCAL RECORDS 店内風景

35歳の頃、勤めていたレコ屋”DISC SHOP ZERO”にて。

高校に入ると、自然にDJを始めた。友達とイベントを打って、ライブハウスみたいな場所を借りて、音を鳴らす。割引なんてないから場所代は高い。だいたい赤字。でも、それでもやる。客の中心は友達。収支を整えるためというより、その場をやること自体が目的だった。

「友達が客。だいたい赤字でやってましたね。」

この一言、かなりいい。無理してカッコつけていないし、でも“あの頃の現場”の空気がそのままある。儲かるかどうかより、鳴らしたい音があって、集まる人がいて、その夜を作るのが面白かった。その感覚は、今の店にも、レーベルにも、ちゃんと残っている。

GLOCAL RECORDSにあるのは、ビジネスとして整えすぎたセレクトじゃない。もちろん店として成立させる感覚はあるけど、それ以上に”これを知ってほしい”、”これはちゃんと届くべきだ”という気持ちが棚から伝わってくる。高校時代から続く“自分の線”が、そのまま大人になっても残っている感じがする。

一度離れて、それでも現場に戻ってきた

店内のレコード棚

卒業後は音響系の専門学校で学び、音楽の仕事に近い道へ進んだ。けれど、最初に入った現場は長く続かなかった。音楽が好きだからこそ、そこでぶつかったものもあったのだと思う。

一度は音楽と関係ない仕事もした。でもDJは続けていた。完全には離れなかったし、離れきれなかった。

大きな転機は28歳のとき。よく通っていたレコ屋から“手伝ってくれないか?”と声をかけられ、そこからまた音楽の現場に入っていく。江古田から下北沢へ移ったその店で10年働き、売場の作り方も、好きなものをどう届けるかも、現場の厳しさも、全部そこで覚えていった。

「大きいのは、28歳の時です。そこから全部始まっている感じです。」

“全部始まっている”って、いい言い方だ。一直線に夢を叶えた人の言葉じゃなくて、一回外へ出て、それでも戻ってきた人の言葉だから重みがある。その店で出会った先輩たちは、知識があるだけじゃなくて、とにかく現場の人だった。自分が好きなものしか売らない頑固さもあれば、思いついたらすぐ形にするDIY感もあった。

GLOCAL RECORDS 店内ディテール

その影響は、いまのGLOCAL RECORDSにかなり色濃く残っている。Tシャツを自分で刷ることも、棚に独自の言葉をつけることも、レーベルを続けることも、全部どこか同じリズムで動いている。思いついたらやる。ダメならやめる。で、また面白いことを始める。その軽やかな執念みたいなものが、この店にはある。

“グローカル”は名前じゃなくて、棚の中身そのもの

店主とレコード

GLOCAL RECORDSという店名は、この店の中身をかなり正確に表している。グローバルでもローカルでもなく、その両方が混ざっている状態。遠い土地の音を扱いながら、選ぶ基準はいつも自分の耳と現場感にある。

「僕が好きなのは、最新のダンスミュージックとワールドミュージックが当たった音源。その交差点です。」

この一言で、だいぶ分かる。たとえば、クラブで鳴る最新のダンスミュージックに、ラテンやアフリカみたいな土着のリズムが流れ込んでいるもの。ブレイクビーツやヒップホップの感覚と、地域性の強い音楽がぶつかって、新しいグルーヴになっているもの。そういう“混ざり方”に、この店主はずっと惹かれてきた。

独自ジャンルの棚

店内には一般的なレーベル棚もあるけれど、それだけじゃない。GLOCAL RECORDS独自の切り口で名付けた棚もある。象徴的なのが、“オーガニックグループ”という呼び方だ。

「最新のダンスミュージックと、ちょっと土着的な。それを勝手に”オーガニックグループ”って言ってる。」

この“勝手に”が最高だと思う。既存のジャンル分けだけでは拾えない感覚を、自分たちの言葉でちゃんと棚にしている。レコ屋って、本来こういうものだよなと思う。正解の分類を教えるだけじゃなくて、”この混ざり方、面白いでしょ”と入口を作ってくれる場所。GLOCAL RECORDSは、その意味でかなり“店の耳”が前に出ている。

先輩から受け取った、まずやってみる流儀

コメント付きのレコード棚

この店の面白さは、棚の並びだけじゃ終わらない。コメントの熱や、レコードの渡し方にも、店主の現場感がそのまま出ている。

ただ相場で機械的に並べるんじゃなくて、”これのどこがヤバいのか”、”どこに耳を引っかけてほしいのか”まで含めて渡したい。GLOCAL RECORDSには、そういう温度がある。

その感覚の芯にあるのが、下北沢で働いていた頃に近くで見た飯島さんのやり方だった。飯島さんは、自分が本当に好きなものしか売らない人だったという。しかも、思いついたことはまずやってみる。ダメならやめる。また面白いことを始める。そんなDIYのスピード感を持った人でもあった。

「思いついたら全部やっちゃう、とりあえず形にする。ダメだったらやめる。」

独自の切り口で棚を作ることも、一枚ずつコメントを書くことも、レーベルを動かすことも、Tシャツを自分で刷ることも。いま店主が自然にやっているいろんな動きは、そういう現場の流儀を身体で受け取ってきた延長にあるのだと思う。

レコードとコメントのクローズアップ

若い頃、店主自身もまた、レコ屋で育てられてきた側だった。店員にすすめられて手にした一枚が、あとで別の場所で違う値段で並んでいることもあった。でも、それでも損したとは思わなかったという。そこには、値段の差以上に、音楽の聴き方や、その盤の面白さを教わった感覚があったからだ。

「授業料的なものだと思ってるし、損したとは思ってない。」

だからGLOCAL RECORDSでは、レコードはただのモノとしてじゃなく、聴き方の入口ごと手渡される。それがこの店の、かなりいいところだ。

ネットでは拾えない“3年前、5年前”が生きている

店内の棚と通路

今はネットで在庫を見て、そのまま買える時代だ。でも、店主はネットと店舗の違いをかなりはっきり見ている。ネットでは、ここ数日で上げたものに注文が集まる。一方で店舗は違う。3年前、5年前に入れたレコードが、ある日ふと誰かに見つかる。

「ネットはここ数日あげたものをみんな買う。店舗は3年前、5年前のものでも、面白い買い方をする。」

これが、レコ屋に行く理由そのものだと思う。欲しいものを最短で手に入れるだけならネットでいい。でも店には、まだ自分で欲しいと気づいていないものに出会う余白がある。子どもの頃、何があるか分からないままレコ屋へ向かっていた、その偶然の面白さを、この店主は今でも信じている。

来店客の視線を誘う棚

来店者はDJが多い。でもそれだけじゃない。若い世代も来るし、外国人も増えている。渋谷・原宿に近い場所でありながら、少し奥まったこの場所までわざわざ来る人たちは、効率だけじゃない“発見”を求めている。その期待に、この店はかなりちゃんと応えている。

“知らない人に伝える”ために、店もレーベルも続いている

レーベルや作品まわりの棚

GLOCAL RECORDSは、レコ屋であると同時にレーベルでもある。大きな予算があるわけじゃないし、派手に打ち上げるやり方でもない。SNSを中心に、限られた方法で少しずつ広げていく。でも続ける理由はすごく明快だ。

「要は、知らない人に伝えていくのが仕事。」

これ、店の仕事にもそのまま重なる。有名なものをただ並べるんじゃなくて、まだ届いていない音を届ける。マニアックかもしれない。でも、だからこそ意味がある。リリースした作品に”あれ買ったよ、かっこいいね”と反応が返ってくる。その瞬間のためにやっている感じが、すごくいい。

専属契約で囲い込むというより、その時々で自然につながったアーティストと作品を形にしていくやり方も、この店らしい。大きく当てることだけを狙うのではなく、自分が本当にいいと思ったものを、ちゃんと届く形で世の中に出していく。その感覚は、店頭の一枚一枚の並べ方ともつながっている。

変わらない核のまわりで、世代が更新されていく

路地と店の空気

店主は、売っているものの核は大きく変わっていないと言う。変わったのは、むしろお客さんのほうだ。新しい世代が増え、若い人たちが同じ棚からそれぞれの一枚を持ち帰っていく。外国人も来る。DJも来る。近所の人もいる。住宅街の空気と都市のカルチャーが、店の前の路地で自然に混ざっている。

この感じが、すごくいい。無理に“誰にでも開く”ことを演出しているわけじゃない。でも、店の芯がちゃんとあるからこそ、そこへ入ってくる人の幅も広がっていく。派手に外へつながりまくるタイプではなく、日々店を開けて、閉めて、また開ける。その繰り返しの中で、店の周りの風景が少しずつ更新されていく。

変わらない核があって、そこへ新しい人が入ってくる。GLOCAL RECORDSの魅力は、たぶんその呼吸の仕方にある。

GLOCAL RECORDSは、知識で圧をかける店じゃない。でも、甘くもない。ちゃんと耳で選び、ちゃんと文脈をつけて、ちゃんと渡そうとしている。だから信頼できるし、また行きたくなる。

表通りのスピードとは少し違う時間が流れる路地の奥で、音はまだちゃんと発見できる。ジャンルを買いに行くというより、混ざり方に会いに行く。GLOCAL RECORDSは、そんな気分で訪ねたい店だ。

GLOCAL RECORDS

GLOCAL RECORDS
東京都渋谷区神宮前

スケートアント

記事を書いた人:
スケートアント
クラブミュージックを軸に、長く“音の鳴る場所”を歩いてきた現場型の音楽好き。DJとして前に出るよりも、フロアの空気や人の動き、音が場をどう変えるかを見るのが好きです。知識を振りかざすより、まず体感。熱やグルーヴ、偶然の出会いを大事にしながら、店と街に流れる“生きた音楽”を伝えていきます。

レコ屋のヨモヤマ話

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