レコ屋の店主・店長の方へのインタビュー連載“レコ屋のヨモヤマ話”。
長野県岡谷市にあるレコ屋「CELLAR RECORDS」。
古い建物を活かした店内には、Jazz、Rockをはじめ、さまざまなジャンルのレコードが並んでいます。そのなかには、店主の浜さん自身がコメントを書き添えた、少しオブスキュアな作品も。
今回は浜さんに、音楽との出会い、演奏することで広がった音楽の見え方、そしてCELLAR RECORDSという場所について聞きました。
音楽を好きになったきっかけを教えてください。
浜さん小学校の高学年頃から、音楽が結構好きだなと思うようになった気がします。たしか、兄が使っていたカセットプレーヤーを手に入れたんです。もらったのか、勝手に持っていったのかははっきり覚えていないですけど(笑)。
その中にJamiroquaiの『The Return of the Space Cowboy』が入っていて、それをめちゃくちゃ聴きました。その頃はジャンルがどうとか分かっていなかったんですけど、耳触りのいい、スムースなものが自分は好きだったんだと思います。『こういう音楽を聴きたかったんだ』というものに初めて触れたような感覚があって、すごく聴いていましたね。
中学生になってMDプレーヤーを買ってもらってからは、かなり聴くようになりました。当時、岡谷にTSUTAYAがあったので、友達と競うような感じでCDを借りに通っていました。
周りに、音楽を熱心に聴いている友達が3、4人いたのも大きかったです。友達に教えてもらったり、自分が教えたりしながら、どんどん聴くものが広がっていきました。当時はRIP SLYMEやDragon Ashとかが流行っていて、そこからR&Bだったり、海外の音楽だったりも自然に聴くようになりました。
みんな結構メロウなものが好きだったんですよね。同じアーティストの中でも、結局みんな好きになる曲が似ているな、みたいな仲間でしたね。
その友達の一人が、中学3年生ぐらいの頃からレコードを買い始めたんです。他の友達もその流れで買っていて、自分もいいなとは思っていたんですけど、その頃はお金もなかったので買えなくて。高校生の頃も、まだCDを買っていました。
初めてレコードを買ったのは大学に入ってからですね。
クラフトワークの初期の曲を集めたベスト盤でした。いわゆるテクノポップとして知られている時期より前の、クラウトロックっぽい頃の音源が入ったものです。
そのときは、まだレコードプレーヤーを持っていませんでした(笑)。
でも、『そのうち絶対買うだろうな』と思っていたので、とりあえずレコードを先に買っていました。

演奏する側になって、音楽の見え方は変わりましたか?
大学は東京に出て、ジャズ研とロック系のサークルに入っていました。
ジャズには高校生ぐらいから漠然と興味があったんですけど、自分の場合は『聴いてみたい』というより、『やってみたい』という気持ちの方が強かったんです。でも、実際に演奏しようと思ったら、当然聴かないとできない。それでちゃんとジャズを聴いてみたら、すごく面白くて。
今でも自分がレコードを買うときは、ジャズが中心ですね。ジャズって、最初にテーマを演奏して、そのコード進行をもとにアドリブして、またテーマに戻る。演奏者同士でやり取りする要素がすごく大きい音楽なんです。
もちろん聴いているだけでも分かることはたくさんあると思うんですけど、実際に人と一緒に演奏してみると、技術的なことも含めて、やってみないと分からない感覚があります。
音と音を通じて会話するような感覚というか……言葉で表現することが難しいんですが。仕事でも、実際にその仕事をやってみて初めて分かることってあるじゃないですか。それに近いと思います。
自分で演奏する側に立ったことによって、音楽を聴くときの視点も増えたと思っています。
ジャズではないんですが、いまも演奏自体はずっと続けていて、ドラムの仕事もしています。ミュージシャンのサポートバンドに継続的に参加していて、全国いろんな場所で演奏に行かせてもらってます。そうしたつながりから、ミュージシャンにお店に来ていただいて、店内でライブをやったり、レコードの催事をやったりもしています。
自分でレコ屋を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
もともと、いつかレコード屋をやるんだろうな、とはなんとなく思っていました。
レコード自体もですが、レコードを買うことも好きだったので。東京のレコ屋で働いていたときも、自分の知らないレコードにたくさん触れられるので、それは毎日楽しかったです。
ただ、そこで働いたから『自分にも店ができるぞ』となったわけではなくて。実際にやると決めてから、より意識して知識を蓄えていった感じです。
今のお店が入っている建物は、もともと生活雑貨の卸業者さんが倉庫として使っていた場所なんです。父が設計の仕事をしていて、古い建物が好きで残したいという人なので、この建物について相談を受けたみたいなんです。それで、自分にも『ここで何かやってみるか』という話があって、それをきっかけに決断しました。

CELLAR RECORDSで大事にしていることや特徴を教えてください。
そもそも自分自身がいろんなジャンルを聴くので、お客さんもいろんな方が来てくれます。その中でも、自分がお店で積極的にコメントを書いて紹介しているのは、ちょっとオブスキュアな音楽ですね。
そういうものがもともと大好きなので、お店でもなるべく推していきたいと思っています。
その影響もあるのか、少しマニアックなものだったり、自分の知らない音楽を探しているようなリスナーの方に来ていただくことは比較的多い気がします。
店内で使っているスピーカーにも少しこだわっています。TANNOYのWindsorというモデルを使っているんですけど、これはUS TANNOYのものです。USの方は、UKに比べるともう少し大味な感じで、低域に厚みがあって、音が前に出てくるような力強さがあるんです。自分はそういう音も好きで、このお店ではWindsorを使っています。
自分自身が意識しているのは、お客さんがどんなレコードを選んでいるのか、なるべく見ることですね。
たとえば何枚かレコードを持っているのを見て、『これが好きだったら、これも好きかもしれないな』と思うことがあるんです。
店にはあるけど、その人がまだ気づいていないものがあれば、『もしよかったら、これも』というぐらいに、やんわりおすすめします。
押しつける感じにはしたくないんですけど、お客さんが何を好きなのか、何を探しているのかは、選んでいるレコードから分かることもあるので。
そこから、その人が知らなかった1枚につながったらいいなと思っています。
あと、値付けもすごく大事だと思っています。相場はもちろん調べますけど、相場に合わせるときもあれば、そのレコードの内容によっては、もう少し安くしてお客さんに届けたいと思うこともあります。逆に、これはこの値段で出したいというものもありますけど。
値付けでお店の印象も変わると思うので、そこはすごくセンシティブに考えています。

実際にレコ屋を始めてみて、どうですか?
めちゃくちゃ楽しいです(笑)。
もちろん嫌なことやネガティブなこともありますけど、それ以上に楽しいですね。
考えてみると、自分は昔から人に何かをシェアするのが好きだったんだと思います。
高校のとき、放送委員をやっていたんです。学校行事でPA機材(※1)を準備したりするほかに、毎日お昼の放送があって、そこで1曲か2曲、音楽を流していました。そのときに、自分の好きな曲をかけるのがめちゃくちゃ楽しかったんですよね。
自分が好きなものを誰かにシェアしたり、逆に誰かから教えてもらったりすることに、昔から快感を覚える人だったんだと思います。
レコ屋も、たくさんある音楽の中から、自分がいいと思うものを選んで誰かに渡していく仕事じゃないですか。だから楽しいのかなって思います。
買取では、お客さんが持ち込んでくれたレコードから知ることも本当にたくさんあります。
自分でレコ屋に行って買っているだけだと、どうしても自分が探しているジャンルや、興味のあるものを中心に見ますよね。でも買取の場合、自分が普段追いかけていないジャンルやアーティストのレコードも入ってきます。
買い取らせてもらったものは、売る前に全部確認するので、そこで『この人のこの作品は知っていたけど、これはちゃんと聴いてなかったな』とか、『これ、日本盤が出ていたんだ!』みたいな発見があるんです。
ときには、カウンターパンチみたいなものをもらうんですよ(笑)。
第三者が持ってきてくれたレコードの中から、自分ではたどり着かなかった面白いものが出てくる。すごく元気になる瞬間ですね。
(※1)PA機材(Public Address):ライブやイベントなどで、マイクや楽器の音を会場へ届けるための音響設備。

これからCELLAR RECORDSを、どんな店にしていきたいですか?
まずは、もっと品数を増やしたいです。来ていただいたお客さんにもっと満足してほしいと思っています。変にまったく違うことを始めるというよりは、今あるCELLAR RECORDSを地道に強くしていきたいです。
そのためには買取も大事ですし、お店で商品につけているコメントを見て面白がってもらったり、『この店なら自分のレコードを持っていってもいいかな』と思ってもらったり。
そういう一つひとつの積み重ねだと思います。
将来的には、買取センターみたいな場所も作れたら面白いなとは思っているんですが、まずはもっとレコードを増やして、来てくれた人に楽しんでもらえる店にしていきたいですね。
最後に、11月21日(土)に、『CELLAR’s Record Market Vol.3』を開催します。茨城のPaddy Fields Records、鎌倉のFOLC Records & Arts、名古屋のhair & music parlour FAM、東京のRubbergard Recordsが出店します。飲食やDJもありますので、ご興味ある方はぜひ来てください!
Recoya VIEW
高校の昼休み、自分の好きな曲を校内放送で流していた浜さん。友達と音楽を教え合い、演奏することで音と音を通じたやり取りを知り、今はCELLAR RECORDSの棚から誰かへ音楽を渡しています。
一方で、買取で持ち込まれたレコードから、自分ではたどり着かなかった音楽を教えてもらうことも。好きなものをシェアする側でありながら、知らない音楽を受け取る側でもある。
その行き来が、CELLAR RECORDSという店の面白さにつながっているように感じました。
浜さんのコメントを頼りに、普段なら手に取らない一枚を選んでみるのも、この店ならではの楽しみ方です。岡谷を訪れた際は、棚を眺め、店内で鳴るTANNOYの音(おすすめです!)にも耳を傾けながら、自分の生活へ持ち帰りたくなる一枚を探してみてはいかがでしょうか。